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門前薬局の今後と薬剤師の役割

門前薬局の今後と
薬剤師の役割

2012年の診療報酬改定により、病棟薬剤業務に対して加算がされるようになりました。
近年は薬学生の半数以上が病院薬剤師を第一志望として挙げており、「薬剤師の花形」というイメージを持っている方も多いでしょう。
しかし、「病院は勉強できる環境だから」という漠然とした理由だけで就職すると、入職後に違和感を感じてしまうこともあるかも知れません。
志望する方が多い病院だからこそ、今回は「病院薬剤師」の業務と実情について考えていきましょう。

目次

1.これまでの門前薬局

病院や診療所といった医療機関の近くに店舗を構える薬局は「門前薬局」といい、隣接する特定の医療機関から発行される処方せんを主に受けています。
門前薬局は1974年(昭和49年)の「医薬分業元年」以降に出現しました。
それまでは院内処方がメインだった薬局業界ですが、診療報酬の改定で処方せん料を100円から500円へと大幅に引き上げた影響で、医療機関が院外へ処方せんを発行し始めたのです。
院外に処方せんを発行する医療機関が増えると、そこに新しいビジネスとして「調剤薬局」が生まれ、医療機関に隣接して処方せんを応需する「門前薬局」が多く誕生しました。

調剤薬局を医療機関に隣接させておけば、処方せんを継続的に得ることができます。また、国も医薬分業を進めるために診療報酬を手厚くしたので、薬局経営者にとって店舗を医療機関門前に構えることは非常に魅力的でした。
製薬会社のMRなどの業界の事情を良く知り、医師とのコネクションも持つ人達もこの機に乗じていっせいに調剤薬局ビジネスに参入しました。
こうした流れもあって医薬分業率は着実に伸び、現在では70%近くにまで達しています。

国が医薬分業に期待したのは、薬剤師が専門性を十分に発揮することでした。服薬指導や薬の飲み合わせ、健康相談など、地域住民が気軽に訪れることができる「健康のカウンセラー」としての役割を薬局に担わせたかったのです。
ところが、実際は多くの薬局が処方せんに従って調剤業務をこなすのみで、その役割を果たしているとはいえませんでした。
自分の好きな薬局に処方せんを持参して良いということを知らない患者も多く、受診した医療機関ごとにそれぞれの門前薬局を利用していたため、複数の薬局から薬を受け取っている患者が多かったのです。
そこで、現状を変革するため厚生労働省は「門前薬局」から「かかりつけ薬局」への転換を促しました。
複数の病院から処方された薬をまとめて管理するかかりつけ薬局が、一人の患者の服薬情報を一元的・継続的に把握することを求めたのです。

2.今後の取り組みと薬剤師の役割

かかりつけ薬局の機能を備える拠点として、「健康サポート薬局」という概念が定義されました。これは、地域の人々の健康全般をサポートすることが期待された薬局です。
従来の「門前薬局」が特定の医療機関の発行する処方せんを応需する『点対応』だったのに対し、「健康サポート薬局」は地域住民の健康を幅広くサポートする『面対応』なのです。

かかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師には、

  • ●ICT(情報技術)を活用して患者の服薬情報を一元的・継続的に把握すること
  • ●いつでも気軽に相談できる薬剤師であるため、たとえ時間外であっても24時間患者からの相談に対応できること、患者の自宅で薬歴管理や服薬指導、残薬確認などの在宅医療に努めること
  • ●かかりつけ医をはじめとした関係医療機関との連携を強化し、包括的にサポートすること

などが求められます。
かかりつけ薬局が服薬情報を集約することで、多剤・重複投薬や飲み忘れ・飲み残しなどが防止され、近年問題になっている医療費の削減にもつながります。

門前薬局から健康サポート薬局への移行が求められている中で、薬剤師の役割も多様になってくるでしょう。
健康サポート薬局では、薬剤師が一般用医薬品(OTC医薬品)や健康食品に関するアドバイスをしたり、健康の促進・増進についての相談を受けたりします。
そして患者の症状を正確に把握し、適切な専門職種や関係機関への紹介も行います。
これまでの調剤業務に加え、専門知識を活かして地域住民を適切な方向へ誘導する提案力と接遇スキルが求められてくるでしょう。