人のためになっていることは、何をしても良い。
患者さんにも社員にも優しい環境づくりに奔走。
株式会社ヤナセメディカル(大阪府)
代表取締役:簗瀬裕彦
本社:大阪府 出店エリア:大阪府 店舗数:3店舗
創業:平成4年 売上高:8.5億円 従業員:40名(2019年10月現在)
現在64歳の代表、簗瀬さん。とてもアクティブでお茶目なお人柄に加え、常に人のためになることを考えている一途さがとても印象的。それは患者さんだけではなく、働く社員に対しても同じ。「人思い」の社長の取り組みと経営する薬局について伺った。
開局までの経緯と店舗の特徴
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薬局開局までの経緯を教えてください。
元々は病院の薬局長をやっていました。当時の職場環境に居心地の悪さを感じていた頃、面白い調剤薬局の社長がいるから会ってみませんか、ととあるメーカーさんに誘われて。そして平成2年くらいに調剤薬局に入社しました。当時まだ調剤薬局は少なかったと思うんですけど、そこで2年ほど勉強させていただいて、平成4年に独立した後、ここ(南花台店)を開局しました。36歳の頃です。
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一番最初に独立されたのはどちらの店舗ですか?
ショッピングセンターに内科、歯科、耳鼻科の3院があったところの薬局ですが、実はそこは僕を誘ってくれた方が開拓されたところで。彼が薬局を出す予定でしたが病院の方で大きな仕事が入ったようで、でもショッピングセンターの方も薬局がないとやっていけないので、譲り受けてやらせていただきました。はじめは耳鼻科しかなかったので僕とパートさんだけでやっていました。その後内科、歯科が増えました。
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現在展開されている店舗の特徴について教えてください。
弊社はすべて面で受けていて、3店舗とも1ヶ月に100ヶ所以上の医療機関に応需しています。枚数は三日市駅前店で月5,000枚くらい、河内長野駅前店で月3,000~4,000枚。取扱品目数は2,000近くありますね。なので、業務効率化のため、自動一包化の機械・軟膏練り器を3店舗すべてで導入しています。
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理想的な薬局ですね。
この地区の特に南の人には、「ヤナセに行ったら薬が揃っている」というイメージができています。僕のおしゃべりなので普段から患者さんといろいろ喋りますし、プライベートで買い物をしていても、「あ、簗瀬さん!」と患者さんから声を掛けてもらうこともあります。そこでご本人やご家族がどうしているかなどフランクに聞けます。地域密着でさせていただいていますね。
開局当初からFAXで処方せんを送ってもらえたら薬を配達しています。うちはFAXをフリーダイヤルにしていて、昔は医院にも営業していました。その頃からのお付き合いで、医師会の先生もよく知っています。居宅と施設の在宅業務も行っています。施設は営業へ行っていなかったのですが、先方からお声が掛かりました。なぜうちなのかお伺いすると、「患者さんからの評判が良いので」ということでした。有り難いことですね。
患者さんと地域のために積極的に関わり続ける。
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地域の薬剤師会会長をされていると聞きましたが、他に何か活動されていることはありますか?
3年前に現近畿国立病院薬剤師会会長と仲良くなって、2人で南河内薬薬連携協議会というものを作りました。そこで、病院の薬剤師と保険薬局の薬剤師と一緒に勉強会をして、顔の見える存在になろうと試みました。その取り組みがメディアに取り上げられ全国から注目され、香川県からは去年末に視察団が来られました。
去年はかかりつけ薬局ビジョンの事業で、入退院の情報提供と相互研修を行いました。
情報提供については、患者さんの残薬を整理して現在服用中の薬のデータを、入院する前に病院へ提供します。あわせて、キーパーソンが誰で、OTCでこういう薬を飲んでいる、一包化の必要の有無といった細かな情報も全部お渡しします。そのために、入院が決まった時点でそのことを病院から教えていただきます。今までは、保険薬局で患者さんから入院すること・していたことを仰らないことが多く、2、3ヶ月来ないと思っていたら実は入院していました、というケースが多々あります。処方される薬もかなり変わっている場合があるのですが、それは患者さんから入院していたことを聞かない限り分からないので、教えてもらえるとこちらも助かります。そして退院が決まった時点で、入院中に服用していた薬など、入院前と変わった情報を貰います。そうすることで、その後の患者さんとのコミュニケーションもスムーズに行うことができます。
相互研修の方は、病院薬剤師の病棟業務を保険薬局の薬剤師が一緒に行ったり、反対に病院薬剤師が保険薬局に行って、在宅に一緒に同行したりしました。病院と保険薬局はお互いを知らないことが多いんです。大規模災害など有事の際、国立病院の薬剤師が遠方から駆けつけるのは難しい場合があります。保険薬局は地元ですから、すぐに手伝いができる。僕は東北の震災の直後から毎年被災地へ行っていますが、いざというときは保険薬局の薬剤師が共同でやらないといけないと感じています。
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地域に対しても何かされていることはありますか?
小中学校や地域の勉強会などで話をさせていただく機会があります。学校で話をすると子供は退屈そうにしますが、先生方は興味津々で聞いてくださいますね(笑)。公民館で薬の話をしても、薬オタクの人しか来ません。本当に伝えたい人が来てくれない。10年以上大阪府の薬物乱用防止指導員をやっていますが、各校の学校薬剤師に教えて、この地域の全中学校で”薬物乱用防止教室”をするようにしています。子供に教えないといけないと思います。小学校での”お薬教室”では早寝早起き、朝ごはんを食べて規則正しい生活をしたら、自然治癒力の高い、薬を飲まなくていい身体になるよという話をしています。
簗瀬さんのアイデアが光る、働きやすい職場環境。
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社内のことについても教えてください。
薬剤師の数は全体で20数名、パートより常勤の方が多いです。歓迎会や暑気払いなどの社内イベントは社員が自発的に企画していて、参加する人がほとんどです。仲の良い職場だと思います。年1回恒例で行うパーティーは休日の昼間にやります。そうすると家庭のある社員も参加しやすいので。
有給休暇は、初年度は10日、1日8時間として合計80時間を支給し、0.5時間から使えるようにしています。例えばお子さんの参観日などの行事で仕事を2時間抜けるとすれば、次の週で勤務時間を2時間足してもらっても良いし、有給から2時間引いてもらってもOKです。取得率は良いですね。
他には、ちょっと変わっている「中抜け手当」というものがあります。シフトの都合で13時~17時の間に薬剤師が7人ほどいる状態になりますが、薬局的には一番落ち着いていて人手もそれほど多くなくて良い時間帯なんですね。そういうときに、一度帰ってもらったら(中抜けしたら)4,000円の手当が付きます。家が近い人はそれを利用して、買い物に行って家事をしてまた出社する人もいます。会社も社員も、効率的に時間と労力を使うことができます。この制度は事務員も利用可能で、利用者はけっこう多いですよ。 -
初めて聞きました。簗瀬さんはアイデアマンですね!
みんなが楽になれたら良いと思っています。弊社の企業理念が、「人(患者さん)のためになっていることは、何をしても良い」なので。何かをしてはいけない、ということは無いです。人のため、患者さんのためなら何をしても良い。でもそれは人のためではなくて自分のためなんです。やってあげた「のに」ではなく、自分が嬉しいから自発的にやるものだと思っています。
誰に対してもその人の気持ちに寄り添うことが一番大事。
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患者さんと接する際に大事にされていることはありますか?
患者さんの気持ちになって寄り添うことですね。薬剤師の悪いところは、いろんな病気の人を知っている身にも関わらず、例えば風邪の症状で来られた方に「大したことないよ」と思ってしまいがちなところです。その人は高熱で死にそうなくらいしんどいかもしれないのに。そのとき「辛いですね」と同じ気持ちになることが大事で、そうすることで「この薬剤師さんは解ってくれた」と安心されると思います。
薬剤師の採用面接のときに必ず話すことがあります。緩和病院に入院中の余命3ヶ月のガンの患者さんから「死ぬのが怖いです」ともし聞かれたら、どう答えますか? と。ある緩和病院のDrは、患者さんの言葉を繰り返すそうです。怖いと言う人には「怖いなあ」、辛いと言う人には「辛いなあ」と。正解かどうかはわかりませんが、同じ言葉を繰り返すことで自分の気持ちを解ってもらえたと患者さんは思うのか、それからは安心して旅立たれますと言われていました。
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今後の展望についてお聞かせください。
今は3店舗だけですが、今後機会があれば店舗数を増やしたいと思っています。
人財については、あと2名ほど採用したいと思っています。僕もサラリーマン時代が十数年あったから働く側の気持ちはわかっているつもりで、お給料、待遇面……モチベーションが上がる環境が大事と思っています。あと2名採用したいというのは、実は今の社員数で十分やれていますが、もっと余裕があるとみんなの心と身体が楽になるし、休みももっと取りやすくなって、いろんなことに取り組めます。例えば地域に出て行って地域の人の健康に貢献できると思います。こうした取り組みを学会などで発表していきたいと思います。みんなに働いてもらいやすい環境作りについては、とても考えますね。