非常事態でより感じた、
町全体で医療・介護をシームレスに提供する必要性。
清風薬局(熊本県)
代表取締役社長 白石 貴裕
本社:熊本県 出店エリア:熊本県内 店舗数:8店舗(うち1店舗は介護ショップ)
創業:平成元年 年商:7億1000万円(2020年10月現在) 従業員:48名(2020年10月現在)
新型コロナウイルスの感染拡大、7月に九州地方を襲った豪雨……。厳しい状況に立たされる中で薬局に求められるニーズと役割を再認識し、前を向いて進んでいく白石社長からお話を伺いました。
-
ご経歴を拝見しました。ご出身は熊本ですが、最初は東京の銀座でご勤務、その後新潟の病院でご勤務されていたということで……どのような経緯だったか教えていただけますか?
大学は東京の北里大学へ進学しました。実は東京の大学へ進学したのは、音楽活動をすることが目的でした。とりあえず東京の大学ならどこでも良いと思って(笑)。ですが、薬剤師である父の手前もあり、受けたのは全部薬科系でしたね。楽器はいろいろやりますがバンドは食べていけないと思ったのでキッパリやめました。今はもっぱら聴く方です。
調剤の業界の方はあまりご存じないかもしれませんが、日本薬局協励会という、いわゆるOTC販売のネットワークにうちも加入していました。その関係で、先代の意向もあり、協励会の会長をされていた先生の薬局にお世話になることになりました。そのときの配属が銀座で、6~7年くらい勤めました。
同じくその薬局で働いていた妻と出会い、彼女の実家がある新潟の佐渡の病院へ移りました。そこで13年勤務し、さらにその後、私の地元のここ熊本へ戻ってきたという流れです。
現在この地区には薬局が7店舗、介護ショップが1店舗ありますが、先日の(2020年7月)豪雨で大きなダメージを受けてしまいました……。 -
門前の医院さんも被災しているのでしょうか?
全部被災しています。どこもぐちゃぐちゃですね……。ですが、復旧に向けて取り組んでいます。診療を再開しているところもありますが、今はかかりつけの患者さんだけ診られている先生が多いようです。
-
貴社のクレドカードにもあった「美と健康」。大変な状況とは思いますが、この理念を持って、患者さんと関わる機会を活性し前向きに過ごしていこうというご意向ですか?
そうですね。その一環として市民公開講座と健康フェアを開催予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で共催するメーカーさんと都合がつかなくなってしまったので中止にし、市民公開講座のみ行いました。
「美」に関して言うと、コロナ禍のときにお客様から「話し相手がいないので、お店に行きたい」という連絡がありまして。今回被災した花みずき薬局という店舗はカネボウ化粧品の販売に力を入れているのですが、お客様から次々に連絡があり、やはり、美に対する支援や化粧品が持つ癒しの力って大事だなあとつくづく感じました。なので、他の店舗で特別に化粧品の販売はできないかとカネボウさんに相談したところ許可を頂けたので、今週の火曜日から販売を始めたばかりです。 -
地域柄比較的年齢層の高い方でも、美を追求するニーズが高いのですね。
ある程度お年を召した方の方がそういう渇望があると思います。コロナの影響でどこへも行けず、特定給付金が入っても使う機会がないという感じで。それなら、自分が美しくなって気持ちが高まれば良いですよね。私は薬剤師ですが、医薬品よりも化粧品や健康食品とか漢方薬とか……どちらかというと代替医療的なものの方が本質を突いているのではないかと感じます。医薬品はあくまでオーバーサバイバルな観点からしか評価がないじゃないですか。なので、長い目でみると、化粧品って大事だと思いますね。
-
貴社で化粧品を扱う歴史は長いのですか?
はい、今の清風薬局の起源となった白石薬局が資生堂を扱っていました。資生堂化粧品の販売をこの地区でも割と多く売っている店舗でしたが、清風薬局になってからはカネボウ化粧品の方に力を入れています。収益の柱の一つにもなっています。
薬局とドラッグストアの役割を分ける。
-
実務実習生を受け入れたり、大学の合同説明会でも社長自らが出向かれたりしているのですよね。
そうです。大学側からOB・OGを求められることもあるので、弊社にいるOB・OGの者を行かせてもいますが、熊本大学、福岡大学は私が直接行っています。被災した花みずき薬局は365日営業の店舗なのですが、土・日に熊本大の院生が勤務してくれていることもあり、研究室の先生たちとの繋がりも強化するべく、熊本大は定期的に訪ねています。
-
被災された花みずき薬局はどのような理由で365日営業なのですか?
先代が、”医療に休日はない”という話をしていまして。ヨーロッパの薬局は24時間夜間も営業していて、”医薬品の供給にストップがない”というのが理念としてあったんですよね。時間は9:00~18:00でもいいので、医薬品の供給・調剤を滞りなく続けたいということから始まっているのだと思います。最近は働き方改革などもあるので、時代とともにそのあたりは改善しないといけないのかもしれませんが。
日本の薬局の場合、担当医師が医院を開けるときに薬局も開けるという感じでしょう。これは正常な薬局の輪番制ではないというのがわれわれの主張です。ドイツの場合は医院に関係なく、2か月に1回くらい夜間当番が回ってきます。ポストみたいなものがあって、そこで処方せんを受け付けて、呼び鈴が鳴ったら行く……そういうイメージがあったのかもしれませんね。
-
協励会からのキャリアで薬剤師とは一線を画した、客商売的な要素も持ちつつ、そのあと病院へ。365日営業というのも、白石社長ならば自然発生的にイメージできると感じるのですが。
通常の調剤薬局だと、そういう発想は出てこないと思います。でも、経営者的視点から言えば、開局していれば処方せんは来ますよね。ただやはり、ドラッグストア(以下DS)との棲み分けは考えた方が良いのだろうなと思います。
今回、水害で7月4日の午前中に町全体が沈みました。11時くらいに私が所持している緊急電話に患者さんから電話がかかってきて、沈んだ町ではない病院の救急外来へ行って処方せんをもらったけれど、調剤してくれる薬局はないか、というお問い合わせでした。薬の内容を教えてもらったところ、営業しているDSに同じものがあったので、そこに行って薬を分けてもらってくださいとお伝えしました。つまり、必ず処方せん薬が必要な患者さんばかりじゃないということです。コロナ禍や災害などの緊急時にも、腹痛などで救急外来へ行かれる方がいらっしゃるのです。そういう患者さんに対してのケアを、薬局だけではなくDSでもできるのであれば、使い分けた方が良いなと言う気はしますね。良いか悪いかは別ですが、経営者的な視点では、避難レベル5という状況で社員を出勤させて店舗を開けられないですから……。
「とりあえずやってみる」ことが大事!
-
最後に今の薬学生さんに対して、「こういう人と仕事がしたい」と思うタイプの人物像はありますか?
端的過ぎるかもしれませんが、薬局業務に興味がある人ですね。倫理観や熱意ももちろんありますけど、仕事ってやり始めて継続していくことに意義があるじゃないですか。そのうえで個人や会社の成長があると思っているので、「とりあえずやってみれば?」と思いますね。頭でっかちにならず、とりあえず舞台に上がることが大事です。