地域に密着して、地域で暮らす患者さまの毎日を支える薬局薬剤師
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エリアを絞っているからこそ、できる在宅訪問
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他社に先駆けて、約20年前からの在宅医療
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柔軟な社風が生んだ、現場目線での取り組み
薬剤師がかかわる在宅医療の多くを占める「施設での在宅医療」。
在宅医療に興味はあっても、実際にはどんなことをするのか、わからない方も多いと思います。
そこで、現場の様子や薬剤師としての取り組みをお伝えするために、往診同行する平本雅之さんに密着させていただきました。
「薬剤師にとっては変化がないことが一番良いこと」と言う平本さんに、在宅医療の難しさや、やりがいについてお聞きしました。
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Q平本さんの普段のお仕事の様子を教えてください。A
基本的には店舗のほうで勤務しておりますが、施設様へのお薬のお届けや、ドクターの往診同行など、外出する機会が多いですね。
お薬のほかに訪問薬剤管理指導報告書など荷物の多いときは車ですが、バイクで訪問することも…。冬は寒く、夏は暑いですが、四季を感じながら走っています。
介護施設では、認知症でない方には直接、お薬を届ける場合もあります。そうした方々からは、ドクターには言いにくいことや、ちょっとした不調の相談など、様々な質問を受けさせて頂いております。
お顔を見ながら「お薬、異常ないですか」とか、「今日は暑いですね」などと声をかけて、話しやすい雰囲気になるようにしています。「今日は何曜日ですかね」と問いかけながら、残薬の確認をしたり、服薬の様子を確認しています。
患者さまから「いつも、良くしてもらってありがとう」と言って頂けると、やりがいを感じますね。お薬を届けながら、患者さまとコミュニケーション
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Qドクターの往診同行で、薬剤師はどのようなことをしているのでしょうか。A
○お薬や必要書類を持って施設へ
こちらの施設では、複数のドクターが往診しておられるので、薬剤師は週に何度か施設に訪問することになります。私の場合は3~4回ですね。他の施設も担当しているので、毎日どこかへ訪問している感じですね。○打ち合わせ
ドクターが到着されたら、施設の介護士さんも一緒に、5分ほどその日診察がある患者さまについて情報交換をします。施設に伺うときは、患者様の情報リストは必ず持参しています。患者さまについての情報を共有する。
○打ち合わせ後、さっそく居室へ
ドクター、介護士さんと一緒に居室へ入り、後ろから見守りながら、情報を記録していきます。たくさんの居室をまわるので、往診はとてもスピーディ。
処方されたお薬でむくみの副作用が出ていた方に、違う薬の提案していたところ、2週間でだいぶよくなってきているのを見て、うれしいのと同時にホッと致します。一人ひとりの居室をまわって診察していく。
こちらの施設はサービス付き高齢者向け住宅で、高齢者の皆さんがケアを受けながら、独立した居室で生活されています。室内はワンルームマンションのようで、ミニキッチン、トイレ、洗面台などが完備されています。皆さん、じゅうたんを敷いたり、たんすを置かれたり、人形を飾ったりと、好きなレイアウトで自分らしい空間を作っておられます。
「貼るのください。シップ」などといった患者さまからの要望は、忘れないようメモしておきます。往診の後、患者さまから呼び止められることも。
○終了後、再び打ち合わせ
この日の結果を踏まえて、ドクターが処方薬について決めていかれます。変更のない方の場合はスムーズですが、体調によってお薬を変える場合は、ドクターから相談を受けることも。
最近では高血圧症のより良い改善を目指す為、処方箋変更になった例がありました。
ドクターより、ある患者様の処方について、アテレックという薬剤に変更する予定だが用法用量が適切かどうかという相談を受けました。添付文書情報や血液検査からの患者様の現在の状況、その薬剤の薬効、そして適切な剤型や大きさかどうかなど総合的に考え、適切ですと回答しました。その提案も踏まえ先生は処方変更されました。最終決定はドクターが行いますがその決定に至るまでには様々な問題を克服する必要があります。薬剤師の立場からの意見も参考になるとドクターは考えておられるのでこちらの意見も取り入れて下さいます。私としては身の引き締まる思いで往診同行させて頂いております。
また栄養摂取状況の良くない患者様の状況改善を目指す為、栄養剤の味とカロリーの変更を医師に提案しました。「エンシュアリキッド」から「エンシュア・H」へ変更となりました。両方とも1本250mlですが「エンシュア・H」の方が1.5倍効率よくカロリーを摂取することができるの点と味のバリエーションが豊富な点をドクターに提案しました。ドクターも栄養状態の悪化を懸念されており意見が採用されました。
味に関しては常勤の介護士さんとも意見交換をして患者様の嗜好も踏まえバニラ味とバナナ味を半分ずつ服用して頂くことになりました。
薬剤師は薬に関することだけ注意すればよいと考えられがちですが、栄養状態の低下が生命の危険につながることも多々あります。
ご入居されている患者様の年齢は平均80歳台と高齢です。患者様の嗜好品や年齢を踏まえないとしっかり服用して頂くことが出来ません。患者様第一の医療をこれからも心がけていきたいと思います。
このように飲み合わせの関係でしたり、剤形によって飲みにくかったりした場合は、私の意見を取り入れてもらい薬の変更が行われることもございます。
こうした打ち合わせをしているとき、医療の現場で薬剤師が必要とされていると感じるので非常にやりがいを感じます。
要望があれば施設の従業員様向けの勉強会を行っております。
こちらの施設様ではなく別の施設様のお話になりますが、漢方の勉強会を行うことで漢方薬に関して関心が高まった例もありました。診察の結果を受けて、今後の対応を検討。
○ドクターが帰られた後、お薬の受け渡しなど
往診が終わっても薬剤師は、すぐに帰るわけではありません。そのほかの細かい連絡事項の確認や、個別のお薬のお届けなどがあります。
この日は施設さまから、急遽お薬カレンダーに「薬なし」のカードを入れるよう依頼があったのですが、手持ち分が沢山無かったので、とりあえず1週間分にしていただくことで何とか対応致しました。
こういったことも、普段から施設さまとしっかりコミュニケーションをとり、互いに連携を取り合っているからこそ、可能となります。事務所に戻って、管理していただく分のお薬を納品。何気ない会話の中から、施設さまの要望をくみ取る。
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Qサンニシイチでは、早くから在宅医療に取り組んでおられるようですね。A
当社では約20年前から在宅医療に取り組んでいます。地域に密接して、地域でどれだけ貢献できているかを目標とする会社として、在宅医療に力を入れることは、当然の流れです。現在、10店舗中9店舗が、国に認められている基準薬局となっています。
在宅医療で求められるのは柔軟さ。当社では幹部も柔軟な考え方を持って取り組んでおり、比較的自由に動ける環境があり、良いと思うことはどんどん取り入れさせてもらっています。もちろん、報告は必要ですが。
当社のように住宅都市に店舗のある会社が、地域のニーズをくみ上げていくと、必然的に在宅医療のほうにシフトして行きます。現在、10施設700人前後の患者さまに薬をお届けしていますが、これからも訪問施設数を増やしていきたいと考えています。在宅担当者の中には認知症キャラバンメイトや、褥瘡や緩和医療など高い専門性を身につけた薬剤師がいます。 -
Q施設訪問について、平本さん独自のやり方があるそうですが。A
これは私が良かれと思って始めたことなんですが、ドクターの往診の前日に施設さまを訪問して、患者さまの直近の情報をドクターにあらかじめ伝えるという方法です。たとえば足の腫れを訴えている患者さまの足の写真を、メールでドクターに送信します。すると事前にドクターが予測を立てられますし、診察の時間短縮にもつながります。
また、むくみの症状が出ている患者さまには、弾性ストッキングが有効なのですが、社内にある医療用品専門店から、いくつかサンプルをお持ちして選んで頂くようにしています。複数の商品の中から、ご本人様と一緒に選んで頂くことで、患者さまの治療意欲を高めることができます。 -
Q在宅医療で重要とされる他職種との連携について教えてください。A
在宅医療を支えているのは、医師、看護師、介護士、ケアマネージャーなど、さまざまなプロフェッショナルたちです。その中に薬剤師も入るのですが、同じ医療系の職種といっても、他職種の方にとっても薬剤師は薬のプロフェッショナルです。よく薬についての相談をされます。錠剤について「かみ砕いて飲んでもいいの?」といった質問が寄せられることもあります。
薬の専門家として在宅医療にかかわるときに、私が大事にしているのは「医療の一部を担っている」という姿勢。いろいろな職種の人がチームとなって患者さまを支えていることを忘れず、患者さまの様子を見て情報共有することが一番大事。薬に関する情報が伝わっていないのは、薬剤師の責任だと考えています。
ドクターからは「その場で薬の相談ができるし、服薬管理もしてもらえる」と往診同行を積極的に活用していただけています。施設の方からは、食事量や入浴など患者さまについてのすべての情報が頂けます。
こうした期待に応えるためにも専門の知識やスキルの吸収は欠かせません。地域連携の勉強会に参加したり、社内でも症例検討発表を行なっています。そしていつか「気の利いた発言のできる薬剤師」になりたいと考えています。お互いの専門性を認め合いながら、他職種で連携。
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Q在宅医療に挑戦してみたいと思っている人にアドバイスを。A
在宅医療は単なる薬剤師ではなく「医療にたずさわりたい」と考えている人に向いている現場だと思います。ドクターの往診同行などは、病院での病棟回診に似ています。薬はあくまでも医療の一部。薬のことしか知らないのではなく「役に立つ薬剤師」を目指して欲しいと思います。
また、同じ在宅医療と言っても、施設と自宅では違いがあります。ご自宅は患者さまにとっては一番安心できる場所ですが、他人の家に入っていくという心構えを忘れてはいけません。
在宅医療の現場では、他職種とのコミュニケーション能力も問われます。患者さまの健康面、生活面の情報共有は、地域でのチーム医療に欠かせないものです。薬剤師としての専門性を活かしつつ、他職種との連携から得られる経験は、かけがえのないものです。
若い皆さんは自分の思うことを100%の力でトライしてみてください。足りないところは先輩がしっかりフォローしてくれます。最後は自分の勇気と決断です。自分が必要とされている感じは、他の現場より強いかもしれません。24時間の緊急電話も、起こる可能性を考えてきちんと伝えておけば、心配する必要はありませんよ。怖がらず挑戦して欲しいと思います。