事前ラウンドによる処方の適正化
―ポリファーマシーの改善と薬剤費の減少に貢献―
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事前ラウンドにより、不要な薬剤投与をなくし、本当に必要な薬を医師に処方提案することができる。
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患者様の家族や介護士・看護師・医師などの他職種から信頼され、群馬県内での在宅訪問数が拡大。
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薬剤師としての重要性が確立され、地域にとって必要不可欠な薬剤師として存在できる。
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Qプラス薬局での在宅医療を始められるきっかけを教えてください。A
これまで病院や薬局の薬剤師を経験してきましたが、私が薬局に勤務していました当時役員だった現社長と2人で独立し約7年前にプラス薬局を開業しました。開業する前から薬剤師は在宅をしなければいけないと思っていましたが、始める際に何から手をつければ良いのかわかりませんでした。特に群馬などの地方都市は当たり前のことですが、東京や神奈川など首都圏に比べ車社会なんですね。ということは、この方々は自分が車に乗れなくなったときに、通院もできなくなるし、薬も服用できなくなってしまうということなのです。そんな時に近隣の医師が薬局を訪ねてきて、「患者が通院できなくなってしまった。往診したいんだけど、薬を取りにくる家族もいないので届けてもらえないか?」と言われたのです。そこから手探りではありましたが、徐々に在宅を始めていきました。
居宅訪問の流れ
①患者様宅を訪問
②体調や薬の服用状況をヒアリングし、バイタルサイン(脈拍、呼吸音、体温、血圧、SpO2(、心音、心拍数、呼吸音など)をチェックする。
③患者様の症状の変化がないかチェック
④忘れず薬を飲みやすいようにセットする
⑤次回訪問を調整
⑥次の患者様のところへ
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Q自然発生的にスタートしたのですね。A
そうです。在宅に行ってみて、予想はしていたものの、その残薬の多さにびっくりしました。在宅患者様のお宅というのは概ね薬の整理などできていないことが多く、私たちが携わるまでは看護師さんが薬の整理をしていて、患者様に薬を飲んでいただくのに丸一日使われていたのです。そのような状況を目の当たりにして、その仕事は看護師さんではなく、薬剤師の仕事だろうと思いました。
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Qプラス薬局での在宅医療の特長を教えてください。A
プラス薬局では事前ラウンドという取り組みを行っています。この取り組みは往診1週間前に薬剤師が患者のもとを訪れ、その様子を確認し聴き取りを行うというものです。バイタルサインや容体の変化などから、前回処方薬の効果や副作用の有無などをチェックし、医師にフィードバックします。また、服薬アドビアランスに問題はみられないか、不要な薬剤投与が漫然と続けられていないか、残薬が発生していないかなど、適正な薬物療法を進めるうえで不可欠な情報も事前に把握することで医師に共有を図ることができます。
施設訪問での事前ラウンド
■医師との往診同行前に薬剤師が訪問し、患者様一人ひとりの体調や症状のチェックをする。
事前に薬剤師が患者情報把握しておくこと医師への処方提案の精度があがる。 -
Qなぜ事前ラウンドに取り組もうと思われたのですか?A
事前ラウンドは治療に薬剤師の視点が反映されやすくなるといった効果があるからです。患者様のなかには往診時に患者の容体に変化がみられず、前回と同じ数種類の薬が処方されることは珍しくありません。ただ、たとえばその際に薬剤師が多剤併用の必要性に疑問を抱いたとしても、薬の削減を提案するために説得力のあるデータをそろえるには時間が足りません。しかし事前ラウンドで患者情報を前もって収集しておけば、処方内容と合わせて吟味し判断するだけの十分な時間がもてます。1週間でさまざまな資料にあたったり、薬局スタッフに相談するなどして、医師に提案するための根拠をそろえることができます。
■事前ラウンドによる患者情報を医師と共有し、薬剤師の目線から処方提案を行う。
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Q事前ラウンドを行う際のポイントはありますか?A
施設や患者様宅を訪問するタイミングですね。患者情報は自分の目や耳で得るだけでは不十分で、日常の様子を把握しているご家族や看護師や介護士らが重要な情報源となります。そのため、彼ら・彼女らに話を聴ける日時を設定するのが望ましいです。一方で、薬剤師の訪問のための時間を確保してもらうには、ご家族や施設との信頼関係の構築は欠かせませんね。
■施設スタッフとのコミュニケーションを大切にし、スムーズな連携をはかる
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Q事前ラウンドによる具体的な成果はありますか?A
事前ラウンドにより、ポリファーマシーの改善と薬剤費の減少という2つの成果が得られています。ポリファーマシーとは多剤併用を指します。薬には副作用や相互作用がありますから、薬が多ければ多いほど副作用が増え、相互作用にいたっては予測不可能ですのでポリファーマシーはよくありません。しかし実際には本当にたくさんの薬を飲んでいる人もいて10種類以上なんて人もいます。特に高齢者はポリファーマシーの人が多いですね。もちろん必要な薬は飲まなくてはなりませんが、それでも不要な薬がないかどうか常に確認していく必要があります。事前ラウンドにより本当に必要な薬の処方提案をし、減薬ができれば患者様の負担を減らすことができ薬剤費も減少することができます。薬剤師は薬を患者様に提供するだけではなく、減らしてあげることも薬剤師の役割だと考えています。
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Q今後どのような薬局を目指していきますか?A
プラス薬局が行っている事前ラウンドは、薬剤師の往診同行によりさらなる成果が見込まれ、そのためには医師との間に確かな信頼関係を築く必要があります。プラス薬局では2011年の開局以来、在宅業務に積極的に取り組み、現在では30弱の介護施設で医薬品の管理や往診同行を行うまでになりました。その実績の積み重ねが医療チーム内での薬局薬剤師の地位を確立したと自負しています。施設や他職種との連携を進めるうえで「相手のニーズに応える」薬局を目指してきます。基本的なことではありますが、相手が何を求めているかを把握し、それに対し精一杯の提案を行う。当たり前のことを地道に続けた結果、薬剤師はチームにいないと困る存在として認められるように、今後も群馬の医療を支えていきたいと思います。